ESSAY

お歳暮の出し方 *エッセイ*

学生時代に日本を去った者にとって、日本の四季折々の風習はほぼ未経験に近い

お歳暮というものがその一つ。

名前は聞いた事はあっても、お中元とお歳暮の違いがわからなかったり、どの時期に何を贈れば良いのか、ソモソモどんな由来があってプレゼントを送る事になっているのか、と外人ばりの無知さ。

風習や伝統というのは、実際のその地の空気に触れながら、実際に体験しないと、単にその国のパスポートを持っているだけでは全く理解できるようにならないのだと身にしみて感じる。

日本のパスポートを持っている者にとって、お歳暮は知らずに通れないはず。年齢が上がるに連れてお歳暮くらい経験しておかなきゃ!と一念発起し、

日本へ一時帰国中にお歳暮を知り合いに送ってみる事にした。

とりあえず常日頃お世話になっているからと言う程で良いかな、と気楽に構え、老舗の羊羹屋に入った。

暖簾を上げ、シックで高級感のあるお店に入ると、お店の人が「いらっしゃいませ」とこちらをまっすぐと見る。

店には私一人、当然ながらそのままお店の人と話す事になる。

「お歳暮を送りたいのですが」

と言ってみる。

お歳暮、という言葉を人生で初めて自分の口から発してみて、とても誇らしい気持ちになると同時に、もう50%くらい今日の仕事はやり終えた気分になった。

「はい、もうお決まりでしょうか」

とすかさず言われ、このスピード感に乗らなくてはと意味もなく焦ってしまう。

「ではこの羊羹セットをください」

と、一番近くにある3種類の羊羹が何個かずつ入ったちょうど良さそうな箱を指差した。

すると、

「承知しました。それではノシはどういたしましょうか?」

とまたすぐに次の難題が降りかかる。

「ノシ?のし?」

頭の中がフル回転する。

まず、漢字が浮かばない。すぐに、箱の上にかける包装の事だとイメージするが、

「なぜ、のし?今、のし?」

という素朴な疑問が頭から離れない。

そこで、ここはスマートに切り返そうと

「ナニがあるんでしょうか?」

と質問を質問で返してみる。心の中で、お店の人が、全てをクリアにしてくれる説明を始めてくれることを静かに祈っている。

が、さらに過酷な現実が待っていた。

「どのようなものをお考えでしょうか?」

と更に質問返しされてしまった。

さっきから、英語でいう”How”ばかり玉突きしている気がして、全く「のし」のイメージが湧いてこない。ふわふわしすぎる状態で、具体的に聞こうにもどういう切り口で聞けばいいのかわからない。背中にスーッと汗が流れたのを感じた。

だ、誰か、説明してほしい・・・。

そしてついに私の口から、

「あ、それでは結構です。」

という諦めの言葉が出た。

何がどう結構なのか、そしてなぜこの質問をされて結構になるのか、全くもって意味不明だけれど、自分の中で、「もう無理かも」と思ってしまったのだ。

お店の人は、

「え、あ、ハイ」

ときょとんとした顔で呆然としている。

申し訳ないと思う反面、相手に気を使う余裕もなく、そそくさと店を出て、100メートルくらい歩いたところで、ゆっくりと立ち止まり、呼吸をする。

き、緊張した・・・。

お歳暮に限らず、こういったちょっとした日本独自のルールにドギマギしながら生活している帰国子女は多いのではないだろうか。

車の初心者マークのように、日本初心者マークを貼ることができたらいいのに、と帰国するたびに思う。

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